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福岡地方裁判所 昭和61年(行ウ)10号 判決

福岡県久留米市善通寺町飯田一〇七三番地の二

原告

香月虎雄

右訴訟代理人弁護士

黒奈木昭雄

三溝直喜

小宮学

同市諏訪野町二四〇一

被告

久留米税務署長

佐藤忠士

右指定代理人

福田孝昭

末廣威文

佐藤治彦

石橋一男

樋口隆造

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五八年五月三〇日付けでした原告の昭和五四年分、同五五年分及び同五六年分の各所得税の決定及び各無申告加算税の賦課決定(いずれも異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事実の経緯

原告の昭和五四年分、同五五年及び同五六年分の所得について、被告がした各所得税の決定、無申告加算税の賦課決定及び異議決定並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表一記載のとおりである。

2  本件所得税の決定及び無申告加算税の賦課決定の違法事由

右各所得税の決定及び無申告加算税の賦課決定は、いずれも、原告の所得のうち、別紙目録記載一ないし四の土地(以下、本件土地もしくは目録一ないし四の土地という。)の転売による分離短期譲渡所得の額を過大に認定したものであるから違法である。

3  本件各無申告加算税の賦課決定の違法事由

また、右各無申告加算税の賦課決定は、次の事由によつても違法である。

すなわち、本件無申告加算税の賦課決定は、各年分の分離短期譲渡所得についてなされたものであるが、原告は、各年分の所得税の確定申告をするにあたり、久留米税務署の担当職員に相談したところ、右職員から、譲渡所得の金額は損失となるので確定申告の必要はない旨の指導を受けたため、右指導を信頼して各年分の譲渡所得について確定申告を行わなかつたものであり、このような事情の下では、無申告加算税を賦課することは許されないというべきである。

4  よつて、本件各年分の所得税の決定及び無申告加算税の賦課決定の全部取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

3  同3の事実中、担当職員が原告の昭和五五年分及び同五六年分の所得について相談を受けて確定申告の必要はない旨指導したことは認めるが、その余は否認する(同五四年分の所得については相談も受けていない。)。被告の担当職員は、原告が提示した資料によつて判断する限り、右譲渡所得の額は赤字となるから確定申告の必要はない旨告げたものであり、しかも、原告は、相談の際、記載内容の真実性を認めがたい領収証を右職員に示したのであるから、相談の前提となる事実についての誤りは原告の責に帰すべき事柄であり、担当職員が各年分の分離短期譲渡所得の金額の計算上、損失の額が生じるとして行つた指導を非難することはできない。

三  抗弁

1  分離短期譲渡所得の金額について

本件各所得税の決定について原告の昭和五四年分、同五五年分及び同五六年分の各分離短期譲渡所得の額は、別表二の一のとおり、それぞれ二八五万七三一五円、三〇二万二九六九円、六四一万三八四八円であり、本件各課税処分の税額は、いずれも右各金額を課税標準とした場合の額と同一か、もしくは、これを下回るものであるから、本件各所得税の決定に違法な点はない。以下分説する。

(一) 造成費

原告の提出した造成費の額に関する資料の中には、その信用性が疑わしいものがあり、また、原告が主張する造成費の額は近隣地のものと比較して異常に高額であつたので、被告は、他に資料を求め、原告提示の資料のうち信用性の認められるものを一部採用したうえ、次のとおり、推計の方法によつて造成費の額を求めたものであり、造成費の内訳を示せば別表三のとおりである。

(1) 雑工事費の額

原告が、本件土地の宅地造成に先立つて、潅木の除去、整地等の雑工事費として昭和四六年三月六日及び同年六月三〇日に各支出した四〇万円及び一〇万円の合計五〇万円を目録一ないし四の土地に面積比に従つて按分すると、別表四の一のとおりである。

(2) コンクリート擁壁工事費の額

本件土地に係るコンクリート擁壁工事の額は、近隣地のコンクリート擁壁工事の一メートル当たりの単価三万六五八六円を基準に本件擁壁工事の長さ七八・六メートルで積算すると二八五万五六五九円と推計され、これを本件各土地の工事の長さで按分すると別表四の二のとおりである。

(3) 本件土地南側法面コンクリート垣積工事費の額

本件土地の当該工事を請け負つた訴外元岡建設こと元岡明人(以下、元岡という。)が発行した当該工事の昭和五二年一〇月二五日付け請求書記載の額八九二万七〇〇〇円から目録四の土地のみについての造成費である隣接排水工事の費用六〇万円を控除した八三二万七〇〇〇円を当該工事の額とし、これを目録一ないし四の土地の工事施工面積で按分すれば別表四の三のとおりである。

(4) 目録四の土地のみに係る工事費の額

目録四の土地のみに施工された工事としては、排水管工事、同土地東北部分コンクリート垣積工事及び車庫工事がある。

ア 排水管工事費の額 六〇万円

イ 東北部分コンクリート垣積工事に係る費用の額 九七万三〇八〇円

次の(イ)(ロ)の合計額である。

(イ) 垣積工事費 七六万五七八〇円

施工されたコンクリート垣積工事の面積は、約三三・二四平方メートルであり、当該工事は、前記(3)の南側コンクリート垣積工事とほぼ同時期に施工されたものと認められることから、同垣積工事の一平方メートル当たりの単価は二万三〇三一円と推計し、右施工面積で積算すると、工事費の額は七六万五七八〇円(一円未満四捨五入)となる。

(ロ) 側溝工事費 二〇万七三〇〇円

当該工事を施工するに当たり、道路との間の側溝については工事長に見合う部分が再施工されたところ、その工事長はコンクリート垣積工事より若干長い二〇メートルとし、工事単価については、元岡が原告に交付した昭和四八年三月付けのU字型側溝工事見積書による一メートル当たり工事単価七七三五円を基礎とし、昭和四八年を基準とした場合の昭和五三年における建設費の上昇率一三四パーセントを乗じて修正した側溝工事費の一メートル当たりの単価を一万〇三六五円と推計し、これに基づき積算すると再施工工事費は二〇万七三〇〇円となる。

ウ 車庫工事費の額 二〇万円

原告の主張額である。

(5) その他の造成費

その他の造成費として、看板代二万七〇〇〇円、測量費一五万円及び代書料八万二三五〇円の合計二五万九三五〇円があり、これを本件各土地の面積によつて按分すると別表四の四のとおりである。

(二) 借入金の利子の額

原告は、借入金利子の額は、原告が訴外福岡県南部信用組合(以下、南部信用組合という。)から、昭和五一年一月一日より同五六年一二月三一日までの間に借り入れた額に対する支払利子の総額であると主張するが、借入金全額が本件土地の取得費及び造成費に当てられたと認めるだけの資料は存在しない。

そこで、原告と南部信用組合との約定利率、本件土地の保有期間等を斟酌し、推計の方法によつて、各年分の利子の額を以下のとおり算定した。

(1) 本件土地の取得費に係る借入金の利子の額

本件土地の取得費は、その全額が南部信用組合からの借入金によつて賄われたものと認め、利子算定の方法として、本件各土地が譲渡される都度、当該土地の取得費相当額だけ借入金が減少するものとし、約定利率に従つて本件各土地の保有期間毎に利子の額を算出したうえ、各年分の利子の額は本件各土地が譲渡された年分に当該土地の取得費の按分比によつた額を当該年分の借入金利子の額とした。以上を表に示せば、別表五のとおりである。

(2) 本件土地の造成費に係る借入金の利子の額

別表三記載のとおり、造成費の総額は一三七三万五〇八九円であるが、そのうち、借入の時期や態様等により南部信用組合からの借入金によつて賄われたと認めうる額は九六〇万円であり、これが本件各土地の保有期間に応じて本件各土地の造成費に投下されたものとして、約定利率に従つて算出された借入金九六〇万円の利子額を本件各土地の造成費の額の比によつて按分し、それぞれ本件土地が譲渡された日の属する年の分の費用とした。以上を表に示せば、別表六のとおりである。

2  無申告加算税の賦課決定処分の適法性

(一) 原告は、昭和五四年分、同五五年分及び同五六年分の分離短期譲渡所得の申告をしなかつた。

(二) 右各年分の各無申告加算税の賦課処分は、別表一の各所得税の決定の金額を基礎に算出されたものであり、右各決定に係る譲渡所得の額は前示の各譲渡所得の範囲内にあるから、右各無申告加算税の賦課処分は適法である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、各年分の総収入金額、取得費の額及び譲渡費用の額はいずれも認めるが、その余の事実は後記2で認める部分を除き全て争う。原告の分離短期譲渡所得は、別表二の二記載のとおり各年とも損失となる。

2  原告の主張する造成費の額及び借入金利子の額は、別表二の二記載のとおりであり、その根拠を示せば次のとおりである。

(一) 造成費

(1) 原告の主張額は実額によるものであり、原告が、造成費関係の領収書であるとして提出したものの中に、記載上、いかなる費目についてのものか明らかでないものがあるが、いずれも記載されているだけの金額が造成費として支払われたことは事実であり、推計の方法による所得額の算出は許されない。

(2) 仮に、推計の方法によるとしても、次の事実をも斟酌すべきである。

ア 近隣地の造成工事については、これを請け負つた元岡の利益相当額を、原告が近隣地各所有者に代わつて元岡に支払つており、しかも、これが原告の本件土地造成費用に含まれているため、近隣地の造成工事費用はその分だけ割安に、逆に原告の本件土地工事費用は割高になつている。

イ 本件土地は、近隣地と比べて地盤が悪く、工事が難しかつたため、工事費が割高になつている。

(二) 本件土地の造成費に係る借入金の利子

原告としても、南部信用組合からの借入金の全額を造成費に当てたわけではなく、八〇〇万円程度の借入金を他の使途に費消したことはあるが、造成費は全て借入金で賄つており、しかも造成費の総額が被告主張の額より高額になることは、別表二の二の記載及び右(一)のとおりであり、少なくとも、造成費に投下された借入金の額は被告の主張より多額である。

3  抗弁2のうち、(一)の事実は認め、(二)の事実は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証及び証人等各目録に記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一事実の経緯

請求原因1の事実(事実の経緯)は、当事者間に争いがない。

第二本件所得税の決定について

一  争いのない事実

昭和五四年分ないし昭和五六年分の分離短期譲渡所得に係る総収入金額、取得費の額及び譲渡費用の額が別表二の一記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  造成費の額

1  原告の実額主張及び推計の必要性

原告は、本件土地の造成費の総額は三三〇六万九三五〇円であると主張し、原告が本件土地の造成費支払に対し工事の請負人である元岡が発行した領収証として提出した乙第一、第二号証、第五ないし第八号証、第一〇、第一一号証、第一三、第一四号証、第二六ないし第三〇号証に記載された金額の合計は、原告の主張する額である三三〇六万九三五〇円となる。

そこで、右各領収証の信用性について判断するに、乙第八号証(金額三四四万円)及び第一〇号証(金額三九四万円)は、成立に争いのない乙第九号証、証人堀川秀昭の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告本人が、支払から長期間が経過した後に、元岡から受け取つた白紙の用紙に自ら記載したものと認められ(右各領収証は、元岡が発行したものである旨の成立に争いのない乙第三七号証中の記載及び証人元岡明人の証言は信用できない。)、その記載内容の信用性が疑わしく、また、乙第一一号証(金額二〇五一万円)は、前掲乙第九号証、第三七号証、証人元岡明人の証言及び原告本人尋問の結果によれば、元岡が押印だけして原告に交付した白紙の用紙に、原告側において明確な根拠のない金額を自ら記入したものと認められ、したがつて、いずれも造成費の実額を認定する資料として用いるだけの信用性がないことが明らかである。

また、甲第二ないし第七号証は約束手形の控であり、造成工事との関連性や支払の事実を認めるには足りないというべきである。

以上のとおり、原告主張額の大部分について信用できる領収証が提出されないのであるから、その余の領収証の信用性について判断するまでもなく、造成費の実額を認定するに足りる客観的証拠は存在しないとせざるをえない。また、原告から二八〇〇万円程度の支払を受けた旨の証人元岡明人の証言は、裏付けとなる証拠等もなく、信用できない。

したがつて、一部推計の方法により造成費を算出する必要性は、これを認めるべきである。

2  造成費の推計

(一) 造成の経過等について

成立に争いのない甲第一号証、乙第三号証、第二三号証、第三一号証の一、二、被告主張のとおりの写真であることについて当事者間に争いのない乙第三二号証の一、二、第三三、第三四号証、第三五号証の一ないし四、第三六号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四号証、証人元岡明人の証言及び原告本人尋問の結果によれば、

(1) 本件土地は、福岡県粕屋郡篠栗町大字津波黒字極楽一一二番一〇四、同所同番一〇五、同所同番一〇八の三筆の土地(以下、それぞれ一〇四の土地、一〇五の土地、一〇八の土地といい、これら三筆の土地をまとめて隣接地という。)と東西にひとつづきに並ぶ形で存在し、これらの土地の南側は篠栗町所有の溜池に、北側は道路のそれぞれ面しており、以上を図示すれば、別紙図面のとおりであること

(2) 本件土地と隣接地の造成工事は、同一時期に元岡によつて施工されたものであり、昭和四六年の終わりころに着工し、同五三年初めころ竣工したこと

(3) 原告及び隣接地の所有者らはいずれも、昭和四七年ころと同五三年ころに、元岡に工事費用及び報酬を支払つたこと

(4) 本件土地及び隣接地の南側コンクリート垣積は切れ目なく連続しており、各土地ごとの工事方法は特に差異がないこと

の各事項が認められる。

原告は、隣接地の造成工事費については、原告が隣接地の各所有者に代わつて支払つており、しかも、これが本件土地造成費に含められているため、本件土地の造成費は割高になつている旨主張し、これに沿う証人元岡明人の証言及び原告本人の供述も存在するが、これらの証言及び供述はきわめて具体性を欠き、何ら裏付けもなく、にわかに信用することはできず、その他本件全証拠によつても右主張に係る事実は認めるに足りない。

また、原告は、本件土地は、隣接地と比べて地盤が悪いため工事費が割高になつている旨主張し、証人元岡明人の証言中にはこれに沿う証言も存在するが、具体的にどの程度割高になつたかは右証言によつても不明であり、他にその点を明確にする証拠はなく、他方、別紙図面で明らかなとおり、目録一、二の各土地は、一〇五の土地と一〇八の土地とに挾まれる位置に、また一〇八の土地は目録二の土地と同三の土地とに挾まれる位置に存在しており、それぞれの土地の間で造成費にそれほど著しい差があつたとも考えにくい。

以上のとおりであるから、被告の主張する隣接地の造成工事費用を基準に本件土地の工事費用を算定するという推計方法には合理性が認められる。

(二) 雑工事費について

潅木の除去、整地等の雑工事は、本件土地の造成の最初の段階で行われるものであり、前記のとおり、造成工事は昭和四六年終わりころに着手されたものであるから、いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第一及び第七号証(いずれも領収証)に係る工事がその時期からみてこれに該当するものと推認され、これらに記載された四〇万円及び一〇万円合計五〇万円を雑工事費として認めることができる。

一方、同じく昭和四六年の日付のある乙第二、第五及び第六号証(いずれも領収証)は、いずれも原告及び二名の隣接所有者を名宛人としてあつたものを抹消して原告だけが支払をしたもののような形に訂正されており、実際に記載されている金額を原告が支払つたものかどうか疑わしく、また乙第二号証には「ソッコー工事代内金」との記載が、乙第六号証には「排水設備布設工事代金」との記載がなされていることなどからみて、いずれも雑工事費の支払に係るものと認めることはできない。

右のとおりであるから、被告が、雑工事費として五〇万円を認めたことは正当である。

そして、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一七号証によれば、本件各土地の面積は別表四の一のとおりであることが認められ、したがつて、雑工事費は同表記載のとおりの各金額であると認めることができる。

(三) コンクリート擁壁工事費について

前掲乙第三、第四号証及び第一七号証によれば、一〇五の土地及び一〇六の土地の右工事の一メートル当たりの単価は三万六五八六円、一〇八の土地のそれは三万二四三二円(いずれも一円未満切り上げ)であること、本件各土地の工事長は別表四の二記載のとおりであることが認められる。

そこで、右単価に別表四の二記載の各工事長を乗じてコンクリート擁壁工事費を推計すると、その額は右表記載の各金額のとおりであると認められる。

(四) 本件土地南側法面コンクリート垣積工事費について

原本の存在及び成立について争いのない乙第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、右工事費に目録四の土地の排水工事費を加えた額は、諸経費を含め八九二万七〇〇〇円であること、そのうち目録四の土地の排水管工事費は五〇万円であること、諸経費は工事費の二割として積算されていることが認められ、原本の存在及び成立について争いのない乙第一六号証の一ないし四によれば、本件各土地の右工事施工面積は別表四の三記載のとおりであることが認められる。

そうすると、目録四の土地の排水管工事費は雑経費を含め六〇万円と推計されるので、右コンクリート垣積工事費は諸経費を含め八三二万七〇〇〇円であると認められ、これを施工面積によつて按分して各土地の工事費を算出すると、その各工事費は別表四の三記載のとおりであると認められる。

(五) 目録四の土地のみに係る工事費の額について

(1) 排水管工事費

前判示のとおり、右土地排水工事費は六〇万円であると認められる。

(2) 東北部分コンクリート垣積工事の費用

右額を直接に認定できる証拠は存しないが、前掲乙第一八号証、成立に争いのない乙第二三及び第二五号証により、工事時期にさほど差異のない南側法面コンクリート垣積工事費用の単価二万三〇三一円を基準として、これに工事面積三三・二五平方メートルを乗じ、同工事費用を七六万五七八〇円と算出することができる。また、原本の存在及び成立に争いのない乙第二四号証に弁論の全趣旨を総合すると、抗弁1(一)(3)イ(ロ)の方法により、右工事の際必要となる側溝の再施工工事費用を二〇万七三〇〇円と推計することができる。したがつて、右費用は合計九七万三〇八〇円となる。

(3) 車庫工事費

原本の存在及び成立に争いのない乙第二六号証によれば、車庫工事費は二〇万円と認められる。

(六) その他の工事費について

いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第二七ないし第三〇号証によれば、看板代、測量費及び代書料がそれぞれ二万七〇〇〇円、一五万円及び八万二三五〇円であり、合計額が二五万九三五〇円となることが認められ、また本件各土地の面積が別表四の四(四の一)のとおりであることは右(二)で認定したとおりであるから、各土地に係るその他の工事費は同表記載のとおりであると認めることができる。

三  借入金利子の額

1  推計の必要等

成立に争いのない甲第八号証、第一〇、第一一号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第二二号証の一によれば、原告は、昭和四八年四月二五日から同五六年一〇月三〇日にかけて、南部信用組合からの金銭借入を繰り返し、同五一年一月一日から同五六年一二月三一日までの間に合計一一五八万八三〇四円の利息を支払つた事実を認めることができ、この事実に原告本人尋問の結果を総合すれば、原告が、本件土地の購入費及び造成費の少なくとも一部を借入金で賄つた事実は、一応推認できる。しかし、原告は、右借入金は、そのうち八〇〇万円程度を除いて、全て本件土地の購入費及び造成費に投下されたと主張するのみで、それ以上に具体的な主張を行わず、また借入金の使途を明確に認定できるだけの証拠も存在しない。

ところで、取得費用となる借入金の利子は、物件の取得又は改良に要する費用を借入れによつて賄つた場合にのみ生ずる特別な必要経費であり、買受代金、造成費等の支出に伴い当然に発生する必要経費ではないから、納税義務者においてその実額を主張、立証しない限りはこれを不存在と推定すべきことは当然である。そして、本件においては、原告が買受代金、造成費の全てを借入金で賄い、各土地を売却するまでこれを全く返済しなかつたと推定すべき証拠は、その裏付けを欠く原告本人の供述以外には存在せず、前判示のとおり必要経費となる借入金の額についての具体的な立証もなされていないのであるから、被告が推計した額以上の借入金利子は、これを認定することができないというべきである。

2  借入金利子の額の推計

前掲甲第一〇、第一一号証、乙第二二号証の一、成立に争いのない乙第二〇、第二一号証、証人石橋一男の証言により真正に成立したものと認められる乙第三九号証ないし第四八号証並びに同証言によれば、被告は、以下に述べるとおりの方法で借入金利子を推計したものであり、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件土地取得の費用に係る借入金については、右取得費用全額(四一三万九五〇〇円)を南部信用組合からの借入金で賄つたものと認めたうえ、利子算定の方法として、別表五のとおり、本件各土地が譲渡される都度、当該土地の取得費用相当額だけ借入金が減少するものとし、約定利率に従つて本件各土地の保有期間毎に利子の額を算出したうえ、各年分の利子の額は、本件各土地が譲渡された年毎に当該土地の取得費の按分比により算出し、これを当該年分の必要経費として認めた。

(二) 本件土地の造成費に係る借入金の利子の額については、前掲甲第一〇、第一一号証、乙第二二号証の一、第三九ないし第四三号証により認められる原告の南部信用組合からの昭和四八年四月二五日以降の借入金から、単なる借替えと考えられるもの、利払いその他明らかに他の用途に費やされたと認められるもの及び借入時期が造成費の支払がなされた時期と異なるものでかつ使途が不明のものを除いた残額の合計九六〇万円が、本件各土地の保有期間に応じて本件各土地の造成費に投下されたものとして、別表六のとおり、約定利率に従つて算出された利子を本件各土地の造成費の額(これについては、先に別表三のとおりに認定したところである。)の比によつて按分しそれぞれ本件各土地が譲渡された日の属する年の分の費用とした。右によれば、(一)の取得費に係る借入金利子の額については、最大限原告に有利に積算する方法を用いているのでこれを過大に算定するきらいがなくはないが、被告の自認する別表五の各金額をもつて、取得費に係る借入金利子と認めることとする。また、(二)の造成費に係る借入金の利子については、右の方法によれば本件各土地の造成費に係る借入金以外のものが算定の基礎に混入されている虞れがある一方、昭和四八年四月二四日以前の借入金利子は考慮されない等、やや不正確な面があることは否めないが、原告において実額の立証がなされておらず、右期日前の借入金の資料も提出されていない以上は、被告の自認する金額である別表六の各金額をもつて造成費に係る借入金利子の額と認めるほかはない。

四  分離短期譲渡所得の金額

以上認定したところの総収入金額、取得費の額、造成費の額、借入金利子の額及び譲渡費用の額によれば、原告の分離短期譲渡所得の額は次のとおり認められ、いずれも本件各所得税の決定に係る右譲渡所得の額を上回る。

昭和五四年分 二八五万七三一五円

昭和五五年分 三〇二万二九六九円

昭和五六年分 六四一万三八四八円

五  まとめ

本件各所得税の決定中その余の部分については原告においてこれを争わず、本件全証拠によるもこれを違法とする理由は認められないから、本件各所得税の決定は適法ということができる。

第三本件無申告加算税の賦課決定の適法性

一  右にみたとおり、本件各所得税の決定は適法であるところ、その各所得税額を基礎にして法定の無申告加算税を計算すると(端数計算については昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法一一八条による。)昭和五四年分は九万二二〇〇円、昭和五五年分は一一万七八〇〇円、昭和五六年分は二五万六五〇〇円となるから、その各範囲内である本件各年分の無申告加算税の賦課決定もまた適法である。

二  原告は、各年分の所得税の確定申告書を提出するに当たり、税務署職員に相談したところ、各年分の分離短期譲渡所得金額が赤字となるから確定申告の必要はないとの指導を受け、これを信頼して各年分の申告をしなかつたものであるから、無申告加算税の賦課は許されないと主張するが、これは要するに、国税通則法六六条一項ただし書にいう正当な理由の存在を主張するものと解される。

そこで、右正当な理由の存否について判断するに、原告が、久留米税務署において、担当職員から、昭和五五年分及び同五六年分の所得税については確定申告の必要はない旨の指導を受けたことは当事者間に争いがないところ、原告が右各年分の所得税について別表一記載のとおりの額の所得税納税義務を負うことは先に認定してきたとおりであるから、右担当職員の指導が客観的には誤つたものであつたことは認められるけれども、本件訴訟の経緯等に照らすと、原告が右相談に際して正確な資料を提示したとは到底考えられず、したがつて、右指導の誤りが、税務署職員の責に帰すべきものであつたとはいえず、むしろ原告自身が責を負うべきものであると推認されるので、右正当な理由の存在は認めることができない。

第四結論

以上のとおりであつて、原告の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷水央 裁判官 大島隆明 裁判官 岡田健)

目録

一 福岡県粕屋郡篠粟町大字津波黒字極楽一一二番地一〇六

原野 三七六平方メートル

二 同所同番 一〇七

原野 三九三平方メートル

三 同所同番 一〇九

原野 四六〇平方メートル

四 同所同番 五七

原野 三九〇平方メートル

〈省略〉

別表一

1 昭和54年分所得税

〈省略〉

2 昭和55年分所得税

〈省略〉

3 昭和56年分所得税

〈省略〉

別表二の一

〈省略〉

別表二の二

〈省略〉

※ △印は損失を示す。

別表三

〈省略〉

別表四の一

〈省略〉

別表四の二

〈省略〉

別表四の三

〈省略〉

別表四の四

〈省略〉

別表五

〈省略〉

※ ( )内の数字は、本件土地の取得費総額に対する各土地の取得費の按分比を示す。

別表六

〈省略〉

※ ( )内の数字は、造成総額に対する各土地の造成費の按分比を示す。

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